「最近、人の名前がなかなか思い出せない」
「以前より物忘れが増えた気がする」
そんな変化を感じることはありませんか?年齢とともに気になる記憶力や認知機能。近年、アルツハイマー病の研究では、脳のエネルギーの使い方にも注目が集まっています。その鍵となるのが、脳の主なエネルギー源である「ブドウ糖」と、もう一つのエネルギー源「ケトン体」です。今回は、脳のエネルギー代謝とアルツハイマー病の関係、そして日常生活で意識したい習慣をご紹介します。
脳は大量のエネルギーを必要とする臓器
脳の重さは体重の約2%ですが、安静時には全身で消費するエネルギーの約20%を使うといわれています。その主なエネルギー源が「ブドウ糖(グルコース)」です。ご飯やパンなどに含まれる炭水化物は、消化・吸収されてブドウ糖となり、血液を通じて脳へ運ばれます。脳はこのエネルギーを利用して、記憶や思考、判断などの働きを維持しています。ただし、脳の健康にはブドウ糖の量だけでなく、脳がエネルギーを適切に利用できることも大切です。
アルツハイマー病は「脳の第3型糖尿病」?
近年、アルツハイマー病では、脳の一部でブドウ糖の利用が低下する「糖代謝の異常」が認められることが分かってきました。また、脳内でのインスリンの働きとアルツハイマー病の関係についても研究が進められています。こうした背景から、アルツハイマー病を「第3型糖尿病」と表現する研究者もいます。ただし、「第3型糖尿病」は正式な医学的診断名ではありません。アルツハイマー病には、アミロイドβやタウと呼ばれるタンパク質の異常、加齢、遺伝的要因など、複数の要素が関係しています。脳の糖代謝の低下は重要な研究テーマですが、それだけで発症の仕組みを説明できるわけではありません。
脳のもう一つのエネルギー源「ケトン体」
脳は通常、ブドウ糖を主な燃料として使っていますが、実は別のエネルギー源も利用できます。それが「ケトン体」です。ケトン体は、脂肪酸などを材料に主に肝臓で作られる物質で、絶食時や糖質の摂取が少ないときなどに増加します。ケトン体には、次のような特徴があります。
- 脂肪をもとに肝臓で作られる
- 血液を通じて脳へ運ばれる
- ブドウ糖とは異なる仕組みでエネルギーとして利用される
興味深いことに、アルツハイマー病の患者さんでは、脳のブドウ糖利用が低下していても、ケトン体の利用能力が比較的保たれていることを示す研究があります。そのため、ケトン体が脳のエネルギー利用を補う可能性が注目されています。ただし、ケトン体を増やせばアルツハイマー病を予防・改善できると証明されたわけではありません。
注目される「MCTオイル」とは?
ケトン体の研究で注目されているものの一つが「MCTオイル(中鎖脂肪酸油)」です。MCTは、一般的な長鎖脂肪酸に比べて肝臓で代謝されやすく、ケトン体の産生につながりやすい特徴があります。実際に、MCTを利用した研究では、血中ケトン体の増加や、一部の認知機能検査で改善が報告されています。しかし、研究規模や対象者、結果には違いがあり、長期的な認知症予防効果は確立していません。MCTオイルを認知症予防のために積極的に摂取することは、現時点では一般的に推奨されていません。
今日から始めたい!脳の健康を支える4つの習慣
脳の健康を守るためには、特定の食品や栄養素だけに頼らず、毎日の生活習慣を整えることが大切です。
① 糖質は「減らす」より「質」を意識する
白米やパン、甘い飲み物などに偏らず、玄米・雑穀・野菜・豆類など、食物繊維を含む食品を取り入れましょう。極端な糖質制限ではなく、栄養バランスを整えることが基本です。
② 良質な脂質を適量取り入れる
青魚に含まれるEPA・DHAや、ナッツ類、オリーブオイルなどをバランスよく取り入れましょう。脂質の種類に目を向けることは、心血管の健康を支えるうえでも大切です。
③ 適度な運動を習慣にする
ウォーキングなどの有酸素運動や筋力トレーニングは、血糖・血圧管理や体力維持に役立ちます。まずは無理のない散歩から始めてみましょう。
④ 睡眠と生活リズムを整える
睡眠不足や不規則な生活が続かないよう、起床時間を整え、十分な休息を心がけましょう。
また、高血圧や糖尿病、脂質異常症などがある場合は、適切な治療と管理を続けることも重要です。
脳の健康は毎日の積み重ねから
アルツハイマー病と脳のエネルギー代謝の関係は、現在も研究が進められている分野です。特に「ケトン体」は、脳のエネルギー利用を補う可能性があるとして注目されています。一方で、ケトン体やMCTオイルによる認知症予防効果は、まだ十分に確立されていません。大切なのは、一つの成分に頼るのではなく、食事・運動・睡眠・生活習慣を総合的に整えること。これからも健やかに、自分らしく過ごすために、今日の食事や暮らしから脳の健康を意識してみませんか?
※物忘れが急に増えた、日常生活に支障が出ているなどの場合は、年齢のせいと決めつけず、医療機関へご相談ください。
鎌倉ナチュラル 店主